賢明さなど犬に喰わせろ 深夜特急1 香港・マカオ
第一子だったからなのか、わりと両親からやめなさいと止められることが多い子ども時代だった。あれは危ないからダメ、こうしたら失敗するからこうした方がいい。自分の経験から息子が失敗や挫折を味わうことがないように配慮してくれているというのはよく分かる。
失敗してはいけないという気持ちが強くなるにつれて、チャレンジしたいという意欲も損なわれていった。休日は家にいて、どこにも出かけたくないし、新しいことをは始めるのは、うまくいかなかったら嫌だからやりたくない。
でも、旅にでるようになって、リスクを取ることの目もくらむほどの自由を味わった。誰も僕のことを知らないし、失敗したって誰も僕を笑わない。訳知り顔で忠告してくるような人もいない。開襟を開いてその土地の人間に助言を乞えば、適度な距離感を保ちながら快く教えてくれる。もちろん、それが間違っていたり、煙たがられたりすることもあるにはあるけれども。
僕は旅が好きだ。半年で17カ国ヨーロッパの国々を回ったこともある。今はすっかり落ち着いてしまって、ふらっと旅に出たりはしていない。その時の気持ちも随分と色あせてしまったように思う。ところが、沢木耕太郎の名著、深夜特急を読んで、何がそのときの自分を突き動かしたのか改めて分かった気がした。
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声なき悲鳴 最貧困女子
近所に口唇口蓋裂の同級生の少女が住んでいた。おぼろげな記憶の中では、彼女の両親は知的障害を持っており、暮らしぶりもあまり裕福とは言えなかった。
粗末な身なりをして、口唇口蓋裂ゆえにうまく発音できないので人とコミュニケーションを取ろうとせず、ひっそりと学校に通っていた。積極的ないじめの対象になっていたわけではないけれど、彼女が困っていてもなんとなく無視してしまうような空気があった。
算数の練習問題を解いていた時間だったと思う。僕の隣に座っていた彼女が消しゴムを忘れてしまったようで、困っていたらしかった。
僕はそれに気がつかなかっただけなのだけれど、教師は僕が彼女を無視したと思ったらしく、僕を叱りつけた。
小学生だった僕は当時すこしだけむっとしたけれど、この本を読んでその思い出に感慨を抱くようになった。
以下、レビューです。
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共感は劇薬 帰ってきたヒトラー
うっかり言った冗談で誰かを傷つけてしまって後悔した経験がないだろうか?
普段は言わないようなことを言ってしまって、なんであんなことを言ってしまったのだろうと頭を抱えた経験が僕にはけっこうある。
エスカレートしていくと口数が多くなって調子に乗ってしまう特徴が僕にはあるので、そういう経験が多い。ウケを狙って言わなくていいことを言ってしまう。
帰ってきたヒトラーは、コメディだ。2012年のベルリンに、突如本物のヒトラーがタイムスリップしてしまったらどうなるか?
第二次世界大戦での思想をそのまま受け継ぎ、話し方も、仕草も本人。
でも、誰も彼が本物のヒトラーだとは思わない。
だから、彼の思想はそのままで、それを熱く語ったとしてもジョークだと思われる。しかも、ドイツ人に人気が出てしまうのだ。