ほんだなぶろぐ

読んだ本、漫画、見た映画などについてのレビューを、備忘録を兼ねて行っております。

制約がドラマを生む「門外不出モラトリアム」

普段演劇というものに縁のない生活を送っているので、ぼくが演劇を語るなんておこがましいのだが、演劇というのはとかく不自由が多い。
まず舞台。小説や映画、漫画だったら舞台は自由自在だが、演劇はそうもいかない。
それに、時間の流れ。これも、ほかのフィクションなら自由自在だ。勝手に一秒を引き伸ばしたり、十年を一瞬で飛ばしたりすることも可能だ。
続けて、カット。今、どこに注目するべきか、演劇の場合アテンションを観客に向けさせるのが難しい。カメラはズームか?パンか?なんて選べない。
ヒロインの持っているナイフに注目してほしい時はどうすればいい?スポットライトを当てるか?それとも周りにリアクションしてもらうか?

ただ、その「不自由さ」が逆にドラマを生むこともある。
特に今は新型コロナの蔓延によって世界全体が「不自由さ」の中にある。そんな中で、オンラインでオーディションし、稽古し、公演まで行う、いわば「フルリモート劇団」である、劇団ノーミーツの旗揚げ公演「門外不出モラトリアム」というものがあると知り、観劇してみた。

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nomeets2024.online

 

以下、感想は若干のネタバレを含むかもしれないので注意。

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もう一つの軸を持つということ ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー

著者のブレイディみかこさんは日本人女性で、アイルランド人の男性と結婚し、二人の間には中学生の息子がいる。彼女らは英国の都市、ブライトンに三人暮らしだ。ときたまネットで見かける彼女の記事はどれも目のつけどころが鋭く、自身の考えをわかりやすく説明しているのでしっかりと腹に落ちてくる。だからこそ彼女が中学生の息子をイギリスでどう育て、その過程でぶつかった問題に対してどう感じ、どう対処したのかが気になってこの本を手に取った。 

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
 

 

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我々は何から疎外されているのか  カフカ「変身」

コロナ禍の影響でにわかにカミュの「ペスト」が注目を集めているらしい。
不条理が集団を襲った作品ということで「ペスト」は有名だが、カフカの「変身」は、不条理が個人を襲った作品として有名だ。

主人公、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目を覚ますと、自分が毒虫になっているのを発見する、というなんとも奇妙な出だしで、さらに言えばその後の展開も暗いのだが、個人的にはすごく好きな作品だ。なので、このエントリーで「変身」の魅力が伝われば、と思う。

 

変身(新潮文庫)

変身(新潮文庫)

 

 

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