ほんだなぶろぐ

読んだ本、漫画、見た映画などについてのレビューを、備忘録を兼ねて行っております。

清潔な廃墟 ブレードランナー2049

誰が撮っても文句を言われるのではないかというくらい、オリジナルのブレードランナーはカルト的な人気を誇っていた。1982年、ぼくはまだ生まれていないのでその時代の空気はわからないけれど、後の多くのフィクションがこの映画の影響を受けていることを考…

全員嘘つき! カズオ・イシグロ初心者にうってつけ 夜想曲集「降っても晴れても」

今年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの著作として有名なのは、「日の名残り」「忘れられた巨人」「わたしを離さないで」などの長編だ。これらの作品は、作品全体が巨大なメタファー、隠喩によって支配されており、書いてあることよりも書いてい…

祝ノーベル文学賞 信頼できない語り手が信頼できる語り手となる時 日の名残り

今年のノーベル文学賞がカズオ・イシグロに決定した。ファンとしてはとてもうれしく思うし、これから日本でもカズオ・イシグロの小説を読む人が増えたらいいな、と思うので、レビューを書くことにした。なぜ彼がこのタイミングでノーベル文学賞を受賞したの…

芸術か猥褻か、知性か本能か?チャタレイ夫人の恋人

1929年。イギリスで初めて出版された「チャタレイ夫人の恋人」は著者ロレンスの判断でオリジナルの内容から性描写が割愛されていた。オリジナルは知人のみに配布されたが、海賊版が横行していたらしい。 1960年、性描写をオリジナルに戻した無修正版チャタレ…

『選択』と『年齢』

2017年夏。文学誌を開いた僕は、3度目の挑戦が報われなかったことを知って肩を落とした。今年で33歳になる。一次予選すら通過できなかった文学賞を、それでも今年もまた目指すことになるだろう。小説のネタになるような構想はある。10年勤めた会社だ。抜き…

街が人を作る。ニューヨーク旅行記

昨日までニューヨークに行っていましたので、旅行記を書きました。 ◆ メモリアル・デイを前日に控えた日曜日。僕はソーホーの安いホステルに泊まっていた。アヴェニューの名を取っただけのいいかげんなネーミングで、かろうじて鍵のかかる一人部屋はスーツケ…

グレート・ギャツビーを三回読む男なら俺と友達になれそうだな「騎士団長殺し」

新刊のたびに全国ネットのニュースになり、ノーベル賞のたびに噂され、存命にも関わらず全集が出る。(僕も持ってる) こんな小説家は僕の知る限り日本では村上春樹だけだ。 そんなわけでもちろん騎士団長殺しには発売前から注目していたし、Amazonで予約し…

すべての部品が置き換えられたとき、同じ人物といえるのか ゴーストインザシェル

テセウスの船というパラドックスがある。ギリシャ神話のテセウスという英雄がクレタ島から帰還したときの船には30本の櫂があり、アテネの人々はこれを大昔から保存していた。しかし、当然櫂は使っていれば老朽化する。朽ちて使えなくなった櫂は新たな木材…

また日本が誤解されてしまう 映画「夜は短し歩けよ乙女」感想

話題になったドラマ「タラレバ娘」のように、最近ではこじらせてるものと言えばもっぱら女子のほうが俎上に上がるけれど、もちろん男子のほうだって負けていない。 映画、夜は短し歩けよ乙女は、主人公が成長するわけでもなく、困難に立ち向かうわけでもない…

沼地に草木は根付かない 沈黙サイレンス 感想

イギリスに半年間住んでいたことがある。2012年の夏から年末にかけてだ。半年とは言えイギリスの家屋に住み、イギリス人と机を並べて仕事をしていた。 イギリスの家屋は日本とはまるで設計思想が違う。気候が違うのだから当然といえば当然だけど、イギリスで…

平和の反対は自由 カント 永遠平和のために

永遠平和のために/啓蒙とは何か 他3編 (光文社古典新訳文庫) 作者: カント,中山元 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2006/09/07 メディア: 文庫 購入: 19人 クリック: 104回 この商品を含むブログ (100件) を見る 平和の反対とはなんだろうか? 戦争?紛争?…

視覚表現のその先 読むドラッグ ウルトラヘヴン

時間とは何だろうか?そして、自我とは何なのか? 果たしてそれらは本当に存在するものなのか? 自己同一性の拠り所となるのは、時間の連続性に他ならない。朝トーストを食べ、信号待ちで危険な車と危うく接触しそうになり、朝礼ギリギリでなんとか出社時刻…

アメリカという名の病 グレートギャツビー

ドナルド・トランプが45代目のアメリカ合衆国大統領選を制したこの年の11月に、グレート・ギャツビーを読みなおす機会を持てたのは個人的にはとても感慨深い。 彼の公約の一つに、「強いアメリカ」を取り戻すというのがあるそうだ。 いつの時代の、どんな…

人間をほかの目的の手段として使ってはならない 夫がATMになった日 考察

www.neginegigi.com ブコメでは「夫=ATMって妻=無料の風俗って言うのと同じくらい品がないと思うんだけどなー」と書きましたが、文字数が足りなくてエッセンスしか書けなかったので、補足したいと思います。 この話題を、もしも女友だちが「私の旦那、自分の…

賢明さなど犬に喰わせろ 深夜特急1 香港・マカオ

第一子だったからなのか、わりと両親からやめなさいと止められることが多い子ども時代だった。あれは危ないからダメ、こうしたら失敗するからこうした方がいい。自分の経験から息子が失敗や挫折を味わうことがないように配慮してくれているというのはよく分…

声なき悲鳴 最貧困女子

近所に口唇口蓋裂の同級生の少女が住んでいた。おぼろげな記憶の中では、彼女の両親は知的障害を持っており、暮らしぶりもあまり裕福とは言えなかった。 粗末な身なりをして、口唇口蓋裂ゆえにうまく発音できないので人とコミュニケーションを取ろうとせず、…

共感は劇薬 帰ってきたヒトラー

うっかり言った冗談で誰かを傷つけてしまって後悔した経験がないだろうか? 普段は言わないようなことを言ってしまって、なんであんなことを言ってしまったのだろうと頭を抱えた経験が僕にはけっこうある。 エスカレートしていくと口数が多くなって調子に乗…

夢と挫折

Netflixのお題「夢と挫折」をテーマにショートショートを書いてみました。

コンビニ人間は交換可能人間

コンビニに期待することってなんだろうか? 喉の渇きを癒やすコーラが売っていること?空腹を満たすおにぎりが売ってること?ATMでお金をおろせること? コンビニに要求されることは、大抵の場合どのコンビニに入っても満たされる。セブンイレブンがなかった…

夢を諦めるとき ドラマ火花の感想

原作を家族で回し読みして、母親にせがまれるかたちでNetflixを契約して火花を見た。正直期待してなかったけど、すごく良かった。 火花は芸人になる夢を持った若者たちの話だ。芸の世界は有名になって食べていけるのは一握りという狭き門。火花で描かれてい…

Netflixで上映中 勇者ヨシヒコシリーズの面白さは「あるある」と「はずし」

勇者ヨシヒコと魔王の城 DVD-BOX(5枚組) 出版社/メーカー: 東宝 発売日: 2011/11/25 メディア: DVD 購入: 11人 クリック: 203回 この商品を含むブログ (51件) を見る 勇者ヨシヒコと悪霊の鍵 DVD BOX 出版社/メーカー: 東宝 発売日: 2013/03/22 メディア: DV…

あの傷が、あなたの生涯ただ一人のほんとうの恋人 充たされざる者

充たされざる者 (ハヤカワepi文庫) 作者: カズオイシグロ,古賀林幸 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2007/05 メディア: 文庫 購入: 3人 クリック: 123回 この商品を含むブログ (33件) を見る 1989年に『日の名残り』でイギリス最高栄誉のブッカー賞を取っ…

獣を追い続けた男

練習のために書いた短編小説です。 イギリス在住の『僕』が余暇でドイツに行ったとき、不思議な老人と出会った話です。

説明過多?説明不足?屍者の帝国

伊藤計劃原作の映画、屍者の帝国を見ました。 伊藤計劃は、虐殺器官、ハーモニーの原作を買うものの、読破出来ずにいます。信者の方も多く、SF界では伊藤計劃世代なんて言葉も生まれるくらいのビッグネームなんですが、今回も僕にはピンときませんでした。 …

人生は選択だらけ。でも、もし選択をやりなおせたら? Life is Strange

やり直したい過去がある。 仕事のミス、学生時代にもっと勉強しておけば、若くて時間のあるうちに旅行に行っておけば、小説を書いておけば。日常のちょっとした失言や、判断のミス。 行こうと思っていたレストランが閉店していたり、休みだったり。 ふとした…

黒い時計の旅

読書会の課題本だったので、初めてスティーブ・エリクソンの小説を読みました。アメリカ文学といえば、ヘミングウェイのような削ぎ落とされたドライな文体のイメージがありましたが、スティーブ・エリクソンの場合はむしろかなりウェットな文体で、真逆のよ…

『茹で過ぎたポーチドエッグ』 ドラマ わたしを離さないで第三話の感想

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) 作者: カズオ・イシグロ,土屋政雄 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2008/08/22 メディア: 文庫 購入: 32人 クリック: 197回 この商品を含むブログ (300件) を見る わたしを離さないで [DVD] 出版社/メーカー: 20世…

さよならを言うのは少しだけ死ぬことだ ちいさな王子 考察

ちいさな王子 (光文社古典新訳文庫) 作者: サン=テグジュペリ,野崎歓 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2006/09/07 メディア: 文庫 クリック: 8回 この商品を含むブログ (37件) を見る ちいさな王子、あるいは、星の王子さま。 パリで空港の名前にもなってい…

死は確かなもの生は不確かなもの「わたしを離さないで」

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) 作者: カズオ・イシグロ,土屋政雄 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2008/08/22 メディア: 文庫 購入: 32人 クリック: 197回 この商品を含むブログ (292件) を見る 塩野七生によれば、古代ローマでは敵軍を撃破した…

強い人 弱い人 無敵の人 「ちぃちゃんは少し足りない」

すごい漫画だと聞いて読みましたが、これは確かにすごい漫画でした。初見では、えっ、これで終わり?と思いましたが、今考えてみると、終わりのタイミングとしては絶妙だったのかもしれません。 ちーちゃんはちょっと足りない (少年チャンピオン・コミックス…