多数決が人を殺す「デモクラティア」
結論から言えば、設定はいいのに、惜しい、という感じのロボットSF漫画です。
現代、あるいはごくごく近い未来の話。
一風変わった多数決システムを開発した大学生の前沢と、ロボット工学を学ぶ元設計士の大学生井熊の二人が少女型のヒトガタロボットを製作することから物語が始まります。
ヒトガタは意思を持っていませんが、前沢の開発した多数決システムの決定にしたがって行動します。
そのシステムとは、次のようなものです。
ある問題に対して、参加者が意見を出しあい、システムがそれを5つの選択肢にしぼります。上位3つは多数の人間が出した選択肢ですが、下位2つはたった1人しかださなかった単一案です。井熊はこのプログラムに興味を持ち、このプログラムに無作為に選ばれた数千人が参加し、ヒトガタがそのプログラムに従って行動したら、集合知を持った完璧な市民として尊敬を集め、ゆくゆくは指導者や、神にでもになれるのではないかと考えます。
2人は実際に3000人のプログラム参加者を集めて、少女型ヒトガタロボットの舞の行動をプログラム参加者に委ねます。買い物に行かせたり、出会った青年瀬野とドライブに行ったり。しかし、瀬野が舞に好意を持ったことで話が思わぬ方向に転がっていきます。
非常に魅力的な設定であり、1巻はちょうどよくさくさく進んでいって、面白かったのですが、2巻からラストにかけての部分で残念なポイントが出てきました。
1.主人公前沢のキャラクターがはっきりしない
前沢は狂言回し的な役割しか持たず、どこまでも傍観者でした。本来であれば1巻のはじめのあたりで前沢のキャラクターを読者にむけてアピールする必要がありましたが、それをしなかったおかげでラストにかけての行動原理がよくわからない、状況に流されているだけのキャラクターに成り下がってしまいました。
開発者が井熊一人でも物語としては成立するし、そっちのほうがよりバッドエンド感が引き立ったことでしょう。
2.大事なところで行動よりも会話を選んでしまった
舞に好意を持った瀬野は家族もなく、職もない、いわゆる「無敵の人」であり、身勝手な論理を背景に無差別殺人を起こそうとします。それを止めようとする舞は、言葉だけで瀬野を説得しようとします。ここは、漫画であれば何かの行動で、映像として見せるべき見せ場でした。
しかし、よく出来ているというのは、舞が人を殺してしまうシーン。瀬野に対してはどこまでも同情的で、慎重な態度を取っていた参加者が、生理的な嫌悪感に突き動かされてあっさりと人を殺してしまうシーンには驚きました。結局人の行動原理は論理だけで成り立っているのではないのです。
本作では誰が舞の行動に対して責任を取るのか?という議論が参加者の間で頻繁になされますが、
デモクラティア(民主主義)では誰の責任も問われないって知ってるからみんな参加してるくせに
とツインテールという顔の見えない参加者が発言しているのが興味深いところです。結局、舞の行動の責任は参加者の誰にも取ることができず、無責任な殺人ヒトガタが野に放たれてしまったのですから。