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ほんだなぶろぐ

読んだ本、漫画、見た映画などについてのレビューを、備忘録を兼ねて行っております。

「玩具修理者」

ホラーSF作家の小林泰三のデビュー作です。この完成度でデビュー作とは、驚きです。語り口、プロット、細部に至る世界観まで完成された極上のエンターテインメント小説でした。
 
本書は、表題の「玩具修理者」と、量子力学的な解釈でタイムリープものを描き出した「酔歩する男」二本の中編小説が収録されています。どちらも甲乙付け難いほどの傑作ですが、僕のお気に入りは表題作の「玩具修理者」です。
ページをめくる手が止められず、一気に読み切ってしまうほどでした。
不可思議でグロく、気持ち悪く不気味な世界観(褒めてます笑)が徹底されており、それでいてどこかノスタルジックな雰囲気をもっています。
 
玩具修理者」のあらすじは以下です。
子どもの持ってくる壊れた玩具をなんでも修理してしまう国籍、性別、年齢不詳の「玩具修理者」。壊れた玩具をたくさん集めて、すべて床に叩きつけてこれ以上は分解出来ないというところまで解体、分解し、床に綺麗に並べてから再び再構築して修理する。修理の行程で他の玩具の部品をつなぎ合わせて合成する。語り部の女は幼い日、死んでしまった赤ん坊の弟を玩具修理者のもとに連れて行きます。
 
ネタバレになってしまいますが、主人公は当初読者と同様傍観者として物語に入って行き、最後のところで実のところは当事者のうちの一人であったという構成の話です。(玩具修理者も酔歩する男もです)
これは、いかにその小説の描き出す世界観が悲壮的で絶望に満ちており、しかも不可逆的(絶対に元には戻せない状況であること)であるかが肝になるわけですが、それが本当に巧みでした。
 
白眉なのは、語り部の女性の設定と途中で出てくるおばさんや友人との会話。両親から日常的に虐待を受けていた彼女は、弟が死んだと知れたらさらに強く叱責され、暴力を受けると思ったため、自身も重傷を負っているというにもかかわらず、自分自身の傷と、赤ん坊である弟が死んで腐りかけ、液体を口からだらだらと流しているのを隠しながら玩具修理者のところへ持っていくシーンです。好奇心旺盛な、どこにでもいるいやらしいおばさんと、ぶしつけな語り部の友だちに質問攻めにあうのですが、その会話が本当にうまかった。それはひとえに作者の人間観察力の妙技だと感じました。この状況で隠し通せるなんはずがないのに、妙なリアリティがあり、ぞっとしました。
 
グロ耐性のある人にはぜひオススメしたい一冊です。