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ほんだなぶろぐ

読んだ本、漫画、見た映画などについてのレビューを、備忘録を兼ねて行っております。

生命と半生命の間「ユービック」

 

フィリップKディックの「ユービック」を読みました。ディックを読むのは「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」以来です。ディックの作品の多くはKindle化されていますので、入手しやすいです。(イーガンも早くKindle化してくれないかな、早川さん)
なるほど、「ユービック」は、読んで損のない、すごい本でした。
 

あらすじ

 
1992年のニューヨーク。(ただ、この本が上梓されたのは1969年ですので、そこから見ておよそ20年後の未来を描いた小説、ということになります)
この小説では、死後すぐに冷凍槽に入れて遺体を保管する施設が存在します。そうすることで残留思念とも呼ぶべき意識が遺体の中にとどまり、「半生命」として生きている人間と会話することができます。
 
また、この小説の世界では、普通の人間、超能力者、超能力を中和する不活性者の三種類の人間が存在しています。超能力者は、企業や組織にスパイとして紛れ込んだりする活動を行い、不活性者は、そんな超能力者を阻止するために「良識機関」から派遣されます。
主人公のジョーチップは「良識機関」に勤める技師で、不活性者の能力を調査するのが仕事です。
「良識機関」はルナで大規模な超能力者の干渉を受けたとする依頼主の依頼で、11人の不活性者と主人公、さらに彼らの雇い主であるランシターを送り込みますが、これは超能力者たちのワナで、依頼主の形をしたアンドロイドが突如爆発してランシターは死亡。主人公と不活性者たちは地球に戻りますが、どんどん時間が退行していくという怪現象が起こり、一人、また一人と生気を吸い取られたように衰弱して死亡していきます。
 

生命と半生命の間

 
半生命というものが、この小説のキーワードになっています。本体は冷凍槽の中に佇む冷たい身体。しかし、精神はまだ生きていて、夢とも空想ともつかない世界の中で生きている。
 
ここからはネタバレになってしまいます。
 
ランシターが爆殺され、地球に戻った主人公たち。ランシターの遺体をすぐに冷凍槽に入れ、遺体を半生命化しようとします。脳は半生命の特性を示しているのに、半生命化には失敗。以降、主人公たちの世界がどんどん「退行」していきます。
エレベーターは近代的な無音のものから退行していって、駆動部むき出しになっていくし、クルマも旧式のものに変わっていきます。
時代が逆行していると感じたために、「過去に戻る」能力を持つ、パットに対して疑いの目が向けられます。彼女がこの事態を引き起こしているのか?
そして、死んだはずのランシターが、テレビで、トイレの落書きで、主人公に問いかけます。
 
わしは生きておる。死んだのはお前たちの方だ。
お前たちの遺体は冷凍槽のなかにあり、お前たちは半生命になっている。
時間の退行減少は、半生命に起こる正常な現象だ、と。
 
死とは一体なんなのか?生とは一体なんなのか?
本当は、我々の身体は冷たい冷凍槽のなかにあり、我々の知覚している世界は我々の見ている夢ではないのか?
 
ディックの織りなす世界にどっぷりと浸かれる一冊です。