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ほんだなぶろぐ

読んだ本、漫画、見た映画などについてのレビューを、備忘録を兼ねて行っております。

愛すべきスノッブ映画 グランドブダペストホテル

 

ウェスアンダーソンのグランドブダペストホテルを観たので、その感想を。
グランドブダペストホテルは、ある小説家がかつて栄華を誇った高級ホテル、グランドブダペストホテルに宿泊するところから始まります。ホテルはオフシーズンで客の数はまばら。かつての栄華の名残はあるものの、お世辞にも採算が取れているようには思えません。
劇中にもそういうセリフがありましたが、『愛すべき廃墟』という表現がぴったりです。
客はほとんどが「おひとりさま」で、すぐに顔見知りになるものの、そこから深く付き合いがはじまることもない。会えば会釈をする程度の仲です。そんな中で小説家が興味をもったのは、ある小柄な身なりのいい老紳士。彼からは独特な孤独の香りがします。
ホテルの スタッフに彼のことを聞くと、彼はこのホテルのオーナーだと言います。年に数回、オフシーズンにこのホテルに泊まりにくるのだということ。豪華な本宅があるにもかかわらず、彼がこのホテルに泊まるときは狭いスタッフルームに泊まるというのです。
興味をそそられた小説家は、ある日、オーナーと夕食を共にします。なぜ、このホテルを買い取ることになったのか?

 


彼はかつてこのグランドブダペストホテルのベルボーイでした。そして、彼の口から語られたのは、ある伝説的なコンシェルジュの数奇な運命。

まずはこの映画のカットの美しさ、スタイリッシュさに目がいきます。枯れた欧州の上品で装飾過多な、エレガンスな雰囲気がそこら中にあふれています。衣装も素晴らしく色彩に富み、品が良くまとまっています。モチーフとなる小道具も、細部に至るまで緻密に計算されています。遺産として証券や土地、金ではなく、ある伝説的な絵画を選ぶこと。脱獄のトリックとして、差し入れのケーキの中に工具を仕込んでそのケーキがあまりに美しかったため、検閲官が切って中身を検閲するのをためらう、などのエピソードもスノビズムとノスタルジーに溢れています。
思いっきりスノッブに振り切った作品にもできたはずなのに、あえてそうはしません。
例えば、コンシェルジュは謀略により老婦人殺害の罪を被せられ、牢獄に入れられてしまいます。ホテルのことを思う彼は、ホテルのスタッフに手紙を書きます。食堂に集められたスタッフに、ベルボーイが手紙を読み上げます。自分がいなくても、自分が見ているつもりで働きなさい。ホテルの威信はあなた達にかかっている、と感動的な内容だけで終わることも出来るけれど、そうはしない。「この後でポエムが42ページ続くので、スープを飲み始めては」とベルボーイが促して笑いに変えるあたりの「抜け感」が僕はツボでした。
(でも、合わないひとはほんとに合わないでしょうね笑)

しかし、この映画のメインテーマは、『愛すべき廃墟』ということでしょう。人が作り、築き上げてきたもの。一人の伝説的なカリスマが人生をかけて作ったものも、時代という大きなうねりのなかでは無力です。結局オーナーは富を得ましたが、またひとりぼっちになってしまいました。しかし、彼には何もないのでしょうか?
いいえ、彼には師であり、友であり、義兄弟であるコンシェルジュとの思い出とグランドブダペストホテルがあります。

スノッブな感じの笑いがツボにある人はオススメです。
ただし、人を選ぶと思います笑