ほんだなぶろぐ

読んだ本、漫画、見た映画などについてのレビューを、備忘録を兼ねて行っております。

統制された狂気を天才と呼ぶ Devilman Crybaby

愛とは何か?
ケモノヅメカイバ、ピンポン、夜明け告げるルーのうた夜は短し歩けよ乙女湯浅政明の監督したアニメ作品には様々な形の愛が現れ、それが試される。友情、家族愛、そして、異性愛
湯浅作品のうちのいくつかはそのエロスとグロテスクな表現がフィーチャーされるが、それはあくまでも「手段」であって「目的」ではない。
本作、デビルマンでも、激しい乱交のシーンがあり、レイプまがいのシーンがあり、腕をもぎ、首をはねて吊るし、親を丸呑みにするようなショッキングなシーンがある。その映像はまごうことなき狂気だ。しかし、それらのどれもがこの作品にとって必然であり、なくてはならないものだ。湯浅作品において、狂気は完璧なまでに統制されている。そして、統制された狂気のことを人は天才と呼ぶ。

残酷な、あるいは性的な表現を通してしか描けないものがある。人は誰かを本当に愛そうとするとき、自分の内側にある暴力の衝動や性的な衝動に向かい合うことになるからだ。
ちょうど、デビルマンの主人公、不動明が最強のデーモン、アモンと一体になった後、自身の破壊衝動、性衝動と向き合い、悪魔と人間の間を揺れ動いたように。

 

 

DEVILMAN crybaby Original Soundtrack

DEVILMAN crybaby Original Soundtrack

 

 石野卓球のOPもすごくカッコイイ。

 

以下、ネタバレを含みますのでご注意を。

 

 


海外を飛び回る医師を両親に持った不動明は同級生の牧村美樹の家に居候している。陸上部に所属しているが、『高校陸上の魔女』と呼ばれ、優秀な成績と美貌を誇り、テレビにグラビアに、と忙しい美樹と違い、明は足も遅く、目立たない。
また、彼は捨て猫が病気で死んだときも、近所の住職が行方不明になったと聞かされたときも涙を流して悲しむほど共感能力が高い。一般的な男子高校生と比べるといささか高すぎるほどだ。
そんな彼のもとに、幼少期からの親友である飛鳥了が現れる。派手なスポーツカーに乗り、夏なのに全身白いコート。そしてなぜか銃器まで所持している。「力を貸して欲しい」と連れられた先はレイブパーティのような場所だった。
ドラッグをキメ、音楽にあわせて踊り、セックスを楽しむ。悪魔を召喚するための「サバト」だ、と了は言う。「しかし、こんなフェイクじゃ悪魔は来ない」そう言って突然了は酒瓶を割り、周囲の人間を手当たり次第酒瓶で傷つけ始める。本物のサバトには血が必要だからだ。
会場はパニックに陥り、いつしか女が本物の悪魔へと変貌する。悪魔の召喚に成功したのだ。
「チャンスだ、アモン」と了は叫ぶ。サバトの中で最強の悪魔、アモンが召喚され、明へと乗り移る。そして明はアモンの破壊衝動を受け継ぎ、周りの悪魔を殺戮し始める。不動明が人間の心をもちながら悪魔の力を身に着けた、デビルマンへと変貌を遂げた瞬間だった。

 

悪魔はわれわれのすぐとなりにいる。了と明はそのことを人類に警告しようとしていた。そんな折、海外から久しぶりに明の両親が帰国する。しかし、空港で明の父親は悪魔に取り憑かれ、母や他の乗客を食い殺していた。自分のなかの悪魔と向き合い、克服しろ、と明は父に叫ぶが、父は自責の念に駆られて悪魔に打ち勝つことができない。見境なく人間を殺す悪魔へと成り果てていたのだ。明は説得を諦め、悪魔と化した父を殺す。

 

両親を悪魔に殺された明はそれ以後、以前にも増して悪魔を憎み、殺しまくる。合体した悪魔アモンの影響もあっただろうが、以前の彼とは似ても似つかぬほどだ。

そんな彼が自分の行動に疑問を持つできごとが起こる。アモンの恋人、シレーヌが明のことを突き止めたのだ。彼女は明の中に眠ったアモンの意志を呼び覚まそうと、明に戦いを挑む。辛くも勝利した明だったが、シレーヌはこれまで戦ってきた雑魚たちとは段違いに強く、明は手負いになってしまう。


明がつけた傷によってシレーヌは死に絶えようとしていた。横たわり、屈辱のあまり慟哭する彼女のもとに、行動を共にしてきた悪魔カイム現れる。「自分と合体し、自分の身体と能力を使って明を仕留めろ」と彼はシレーヌに迫る。しかし、合体すればカイムは生命を失ううえ、もしも明を殺せたとしても自分もカイムもどちらにしても死んでしまう。そう訴えたシレーヌだが、カイムはそれでも君に明を殺す喜びを味あわせたいと主張する。
「なぜ?」とシレーヌが問い、2人は見つめ合う。
カイムの答えはシンプルだった。

シレーヌ、血まみれでも君は美しい」

 

悪魔にも愛があるのか?
シレーヌとカイム、2人の決死の一撃を辛うじて生き延びた明は、その後この問いに取り憑かれることになり、幾度となく了に問うが、彼はそれを否定する。
「悪魔に愛など存在しない。奴らは良心がない。他人をいたわる心がない」

了は悪魔を殺すために人が犠牲になるのを厭わず、悪魔に愛があることも認めない。明は彼の考え方に共感できなくなり、ついに袂を分かつことになった。

この作品は愛をめぐる物語だ。了は天才的な知能を持ち、圧倒的な財力を誇る。のちに正体がサタンだと分かると、最強の悪魔アモンをも凌ぐ戦闘能力を発揮する。彼はその生涯を孤独の中に生きていた。彼が欲しかったのは明だけだった。しかし、明への愛情表現は独りよがりでいびつなものだったため、ついに明の心は永遠に了から別離してしまう。

愛とは他者に対する思いやりであり、自己犠牲である。美樹や明は自己犠牲によってなんとか思いやりの心を取り戻そうとするが、世界は簡単にはそれに応えようとしない。彼らの愛は試され続けることになる。2人は苦悩し、傷つき、幾度となく世界から裏切られる。
たった20分×10話の中にこれほどまでに緊密に構成され、宇宙規模に展開し、かつこれほどまでに深淵なテーマを描ききった作品を他に知らない。
天才 湯浅政明の統制された狂気がDevilman Crybabyで存分に発揮されている。