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ほんだなぶろぐ

読んだ本、漫画、見た映画などについてのレビューを、備忘録を兼ねて行っております。

強い人 弱い人 無敵の人 「ちぃちゃんは少し足りない」

 

 すごい漫画だと聞いて読みましたが、これは確かにすごい漫画でした。初見では、えっ、これで終わり?と思いましたが、今考えてみると、終わりのタイミングとしては絶妙だったのかもしれません。

 

 

 

 この漫画は、ちぃちゃん、ナッちゃん、旭という三人の女子中学生の日常を描いた話です。
 「日常」とはとりとめのない雑多な出来事を指すことが多く、それはそれで好きですが、この漫画には明らかにテーマがあり、そのテーマを的確に提示するために、細かい日常の一コマ一コマが計算しつくされています。

 かわいらしい絵柄と裏腹に、読後感は鬱々としたものです。賛否は別れるでしょうが、たぶん、すごく好きとすごく嫌いに別れるんじゃないかと思います。誰にでもありえそうなシチュエーションだからこそ、読者はこの漫画が提示するテーマを無視することができない。好きか嫌いかは別として、無視することができないうのは、優れた物語のもつ特質だと思います。ちなみに僕はすごく好きです。

 この漫画のテーマは「持たざる者の鬱屈」です。

 作中に直接的な表現はないのですが、明らかにちぃちゃんはなんらかの知的障害を抱えています。彼女は社会のルールや、暗黙の了解というものが分からず、幼児的なイレギュラーな言動をしばしば起こします。彼女のイレギュラーな言動に対して、どうやって周りが反応するか?が本書の構成です。
 旭は二人に比べて裕福な家庭に生まれており、学力が高く、正義感も強い人物として描かれます。対して、ナッちゃんはちぃちゃんと同じ団地で暮らしており、学業も秀でておらず、引っ込み思案で、家庭も裕福ではないため、旭に対して強い劣等感を抱いています。テーマが「持たざる者の鬱屈」である以上、おのずと主人公はナッちゃんになってきます。

 作中で、ナッちゃんは旭を強い人、持つ者、自分(ナッちゃん)は弱い人、持たざる者として劣等感を抱き続けます。そして、社会的な規範と外れた行為をいとも簡単に行うことができるちぃちゃんは、学校で「ある事件」を起こし、無敵の人となるのです。

 ナッちゃんはその事件によって破滅の道へと引きずられていく。しかし、この漫画において白眉なのは、強い人のはずの旭が、この事件で過ちを犯すことです。

 無敵の人の起こした事件に反応して、二人の相反する登場人物が過ちを犯す。そして、その結果、旭は過ちを認めて周囲と和解しますが、ナッちゃんは自分の犯した過ちと向き合うことができず、周囲とどんどん孤立しています。この状況を見るに、強い、弱いというのは性質ではなく、状態であるのかもしれないと思います。同じ人間であっても、それぞれの状況によっては強い時もあるし弱い時もある。
 しかしナッちゃんにはそれを把握することはできません。それは彼女の若さゆえの狭量さなのかもしれませんし、先天的に彼女が持っている愚かさなのかもしれません。ナッちゃんは、周囲と分かり合おうとせず、それゆえに破滅へと足を踏み出すことになりました。

 人は弱っている時にはどうしようもない過ちを犯してしまうことがあります。しかし、自分の犯した過ちと向き合うことができれば、いつかそれに打ち克つことができる。
 最も恐ろしいことは、自らの起こした問題から目をつぶり、じっと息を殺してやり過ごそうとすることなのかもしれません。大変滋味のある漫画です。