ほんだなぶろぐ

読んだ本、漫画、見た映画などについてのレビューを、備忘録を兼ねて行っております。

2020-01-01から1年間の記事一覧

寄るべない不安「斜陽」

太宰治はぼくにとってながらく読まず嫌いの作家だった。いや、正確に言えば、10年以上前、学生時代に一度は読んでおかないと、と思ってまずは代表作と言われる「人間失格」を手にとって、これはなんという気障な男の話か、と大いに辟易してしまった。主人…

恋をすることの苦しさ、痛み、そして滑稽さ「ヴェネツィアに死す」

映画から入ってしまったからか、やはりどうしても映画と比較しながら読んでしまった。映画のほうは8割アッシェンバッハ、2割タッジオという感じだったけど、こっちは10割アッシェンバッハだった。もうずっとアッシェンバッハ。基本的なプロットは同じな…

「ベニスに死す」は美少年ではなくおじさんを愛でる映画?

タージオ役のビョルン・アンドレセンの美しさをフィーチャーした作品かと思いきや、タージオが出てくるのは(あくまで体感で)全体の2割程度。じゃぁ残りの8割は何を映しているのか、といえば、主人公のおじさん(アッシェンバッハ(ダーク・ボガード))の…

本物のまやかしとはなにか 「ティファニーで朝食を」

もっと若いときに読んだときは、ホリー・ゴライトリーという女性はなんてわがままで好き勝手しているのだろう、これほど自由奔放に振る舞っているのならばさぞ本人は楽しいだろう、と思って読んでいたが、それなりに大人になってから読むとまったく別の感覚…

信頼できない語り手が作り出す三つの世界「日の名残り」

カズオイシグロの大ファンで、著作はほぼ全て読んでいるのだが、その中でもひときわ秀逸だと思うのはやはり「日の名残り」だ。 品格の問題、叶わなかった恋の問題、イギリスの旅情、とにかくいろいろな側面で話す内容の多い作品ではあるが、今回はこの小説で…

自由の正体 「1984年」

全体的に重苦しくて救いがないし、ところどころで偏執的とも言える思想の垂れ流しのような文章が羅列されていて実によみづらく、眠気を催してくるものの、この小説のことは昔からずっと好きだった。今回も読みすすめるのはけっこうな苦行ではあったが、「今…

不条理を受け入れる 「ペスト」

新型コロナウイルスの影響で話題になっている「ペスト」。この本は日本だけでなく、ロンドンレビューオブブックスでも取り上げられており、イギリスでも話題になっているようだ。(ロンドンレビューオブブックス)https://www.lrb.co.uk/the-paper/v42/n09/j…

制約がドラマを生む「門外不出モラトリアム」

普段演劇というものに縁のない生活を送っているので、ぼくが演劇を語るなんておこがましいのだが、演劇というのはとかく不自由が多い。まず舞台。小説や映画、漫画だったら舞台は自由自在だが、演劇はそうもいかない。それに、時間の流れ。これも、ほかのフ…

もう一つの軸を持つということ ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー

著者のブレイディみかこさんは日本人女性で、アイルランド人の男性と結婚し、二人の間には中学生の息子がいる。彼女らは英国の都市、ブライトンに三人暮らしだ。ときたまネットで見かける彼女の記事はどれも目のつけどころが鋭く、自身の考えをわかりやすく…

我々は何から疎外されているのか  カフカ「変身」

コロナ禍の影響でにわかにカミュの「ペスト」が注目を集めているらしい。不条理が集団を襲った作品ということで「ペスト」は有名だが、カフカの「変身」は、不条理が個人を襲った作品として有名だ。 主人公、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目を覚ます…

矛盾してるけどずっと愛するだろう マリッジストーリー

あのスターウォーズのアダム・ドライバーが主演か、ふーん。という程度の期待値の低い状態で見たのだけど、個人的にすごく心を打つものがあったのでレビューしたいと思う。 のっけからネタバレしているので未視聴の方はご注意願いたい。 『マリッジ・ストー…

本音を言わない人たち「高慢と偏見」

再読して改めて感じたが、この小説の魅力は極めて繊細で、驚く程難解だ。なにしろ、登場人物たちはストレートに自分の感情を表現しない。 村上春樹が小説の創作について、「優れたパーカッショニストは一番重要な音を叩かない」と表現したが、その表現は言い…