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ほんだなぶろぐ

読んだ本、漫画、見た映画などについてのレビューを、備忘録を兼ねて行っております。

夢を諦めるとき ドラマ火花の感想

 

 原作を家族で回し読みして、母親にせがまれるかたちでNetflixを契約して火花を見た。正直期待してなかったけど、すごく良かった。

 火花は芸人になる夢を持った若者たちの話だ。芸の世界は有名になって食べていけるのは一握りという狭き門。火花で描かれているのは若者たちの栄光と挫折だ。

 諦めずに頑張れば、夢は必ず叶う。
 僕が子供だった90年代のJ-POPはそんなメッセージをしきりに歌っていた。
 ピースの又吉直樹さんは現在35歳で僕は現在32歳。まあ、同年代といえるので、きっと同じ空気感の中で育ったと思う。

 諦めずに努力すれば、あの娘に振り向いてもらえるし、並み居る強豪校とも渡り合っていける。僕たちが子供時代を生きたのはスラムダンクみたいな努力、友情、勝利の時代だ。

 でもいつか僕たちは気がつく。全員がエースで4番になれるわけじゃないし、インターハイに出場できるわけでもない。他の選手だってがんばっているんだし、親から授かった体格も才能も大きく違う。夢をつかむ人間よりも、諦める人間のほうが圧倒的に多いだろう。
 じゃぁ、夢を諦めるときって、一体いつなんだろう?

火花

火花

 

 

 

 主人公の徳永は、作者の又吉直樹さん同様、ちょっと人を食ったような飄々としたところのあるキャラクターだ。彼は彼で魅力的なんだけど、この話を牽引していく動力になっているのはやはり先輩芸人の神谷であり、彼の魅力が火花の魅力だと思う。

 神谷の性格は漫才を愛するがゆえに破天荒で型破り、後輩思いの一面もあり、意外と面倒見もよい。その一方で、後輩にいい格好を見せたいがために借金し、同棲している女性、真樹への責任を回避し、彼女からの献身だけを身勝手に享受する。彼のそうした姿は、大人になることを拒否しているようにもみえる。
 それに比べ、徳永の相方、山下が嫁の妊娠を期にスパークス解散を決意するが、それは山下が大人になったからなのだろう。
神谷は大人になるタイミングを逃したのだろうか。

大人になるってどういうことだろうか?

 夢を諦めて、現実を見据えるようになる。果たしてそれが大人になるということなのだろうか。だとするならば、どうして僕たちは大人になることを拒否し続ける神谷に魅力を感じるのだろう?

 たぶん、それは大人になるということが、必ずしも夢を諦めることとイコールで結ばれているわけではないからだと思う。

 

 『集団の中での何者でもない自分』と、『替わりのいないかけがえのない自分』。相反するその2つを常に意識できることが、大人になるということなのだと思う。

 スパークスを辞めて、就職するという決断をした徳永に対して神谷が言った台詞が印象的だ。淘汰されてしまった自分たちは決して無駄じゃないという言葉に、彼なりの哲学が垣間見える。彼は単に子供なだけのキャラクターではないのだ。

 

『淘汰された奴等の存在って、絶対に無駄じゃないねん。やらんかったらよかったって思う奴もいてるかもしれんけど、例えば優勝したコンビ以外はやらん方がよかったんかって言うたら絶対そんなことないやん。一組だけしかおらんかったら、絶対にそんな面白くなってないと思うで。だから、一回でも舞台に立った奴は絶対に必要やってん』

 

 神谷の魅力は、大人と子供の間をふらふらとさまよって形が定まらないことだ。火花のように一瞬のスパークでぱっと光るし、燃え盛る炎のようにゆらゆらとゆらめいている。それに呼応するように主人公である徳永も自意識の間をふらふらと揺れる。
 二人のそんな危なげな様子が気になって、僕たちは彼らを遠くから眺めるのかもしれない。彼らの火花が大きな何かに火をつけることを夢想しながら。


 ところで、徳永が街を疾走するシーンがあって、あまりにも足が速いので家族で『徳永w足速すぎwww』ってなったのですが、それもそのはず。徳永役の林遣都さんって三浦しをん原作の『風が強く吹いている』で駅伝ランナー役やってたんです。これマメな。

 

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Netflix火花お題「ドラマ火花の感想」 

 


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2016年の芥川賞受賞作『コンビニ人間』の感想を書きました。

神谷が、『集団の中の自分』を軽視する傾向があるとしたら、コンビニ人間の主人公は、『かけがえのない自分』を軽視する人間のようです。仕事人間が増えている昨今、興味深い内容でした。

もしよかったらどうぞ。

jin07nov.hatenablog.com

 

夢と挫折のテーマでも書いています。こちらもよければ。

jin07nov.hatenablog.com