ほんだなぶろぐ

読んだ本、漫画、見た映画などについてのレビューを、備忘録を兼ねて行っております。

東でも西でもないアメリカ 「グリーンブック」

1962年、黒人は白人のいる病院、バス、電車、レストランなどに入れないという人種差別的内容を含んだジム・クロウ法が有効だった時代のアメリカ南部。そのアメリカ南部をあえてリサイタルツアーで旅する黒人の天才ピアニストの「ドク」と、彼の用心棒兼運転…

神は死んだ 「最初の悪い男」

最初の悪い男、とは一体誰のことだろう?この小説のタイトルになっているこの言葉のことを考えながら読んでいると、作中でそれらしい記述があった。 「最初の人だよ 」と彼女が言った 。 「デニムの ? 」 「最初の悪い男 」言われてみれば 、そういう立ち方…

無常への儚い抵抗 妊娠カレンダー

そのままを維持したい感情と何者もそのままではいられないという現実 小川洋子を読むのは博士の愛した数式に続いて2冊目である。だから、まだまだ彼女のライトモチーフを語るほどには読み込んではいないのだが、今回彼女の小説から感じたのは、変化への拒絶…

「本質」はどこにある? バーニング

村上春樹の短編小説「納屋を焼く」を原作にした映画「バーニング」を見てきましたのでその感想を書きます。 テセウスの船というギリシャ神話に基づく有名なパラドックスがある。ファレロンのデメトリウスの時代からあるとされる希少価値のある30本の櫂を持つ…

限りなく続く自由への闘争 「ロンググッドバイ」

ロンググッドバイを筆頭とする探偵フィリップ・マーロウシリーズにおける最大の謎とは、小説家のミステリアスで美しい妻でもなければ、警察権力とマフィアの闘争でもなく、総白髪の礼儀正しい酔っぱらいでもない。それは、主人公であるフィリップ・マーロウ…

男に生まれるのではない、男になるのだ 「たてがみを捨てたライオンたち」

1949年にフランスの哲学者シモーヌ・ド・ボーヴォワールが「第二の性」の中で言った。「女に生まれるのではない。女になるのだ」当時は終戦からまだ四年。男性が戦争で激減し、女性は自立して前を向かなくてはならない時代だった。当時の感覚は想像するしか…

「存在」というものの不確かさ 納屋を焼く

10年以上前に読んだ短編で、使っていない納屋を焼く、なんとなく不気味な趣味を持つ男が出てくる短編小説だということは覚えていた。今回読み直して少し驚いた。かなり緊密な構成になっていたからだ。 村上春樹は基本的には技巧的というよりも職人的な、言わ…

引き伸ばす者への憎悪 キャッチャー・イン・ザ・ライ

ギリシャ神話のなかで、「引き伸ばす者」という意味のプロクルステスという強盗が登場するエピソードがある。プロクルステスは通りがかった人に「休ませてやろう」と言って鉄の寝台の上に乗せ、相手の体が寝台よりはみだしたらその部分を切断し、寝台の長さ…

変わるもの変わらないもの シュガー・ラッシュオンライン

シュガーラッシュは前作から大好きで、続編となるこのシュガーラッシュ オンラインはずっと前から楽しみにしていた。シリーズのファンだということもあるけれど、予想を裏切らない最高の出来ばえだったと思う。そこで描かれていたのは、前作と変わらない普遍…

周回軌道上の衛星たちは気の毒なライカの夢を見るか 「スプートニクの恋人」

なぜ、宇宙飛行士もロケットも人工衛星も出てこないこの小説の題名が、「スプートニクの恋人」なのだろう?この小説を読み解く上でこれ以上の問いはない。そこから始めたいと思う。 世界初の人工衛星が宇宙に向かって打ち上げられたのは、1957年のソ連だ。一…

与えよ、さらば奪われん 「白痴」

ルカの福音書 第6章に、「与えよ、さらば与えられん」という言葉がある。 まず相手に与える。すると、与えたものは自ずと姿を変えてあなたに戻ってくる。ただし、このときあなたは決して見返りを求めて行動してはならない。無償の愛こそがあなた自身の救い…

「世界の敵」と人類の重大な脆弱性について アンダーグラウンド

霊長類の脳の大きさと、群れの数には相関関係があると言われている。オマキザルの一種「タマリン」という小さなサルでは5個体、ニホンザルなどが含まれる体の大きな「マカク属」では40個体。なぜ霊長類が群れを形成するかといえば、単純にそのほうが生存確率…

部屋に象がいる 『細雪』

英語にこんな慣用句がある。 There is an elephant in the room. 直訳すれば、この部屋には象がいる、となるのだが、なんとも奇妙な言い回しだ。部屋に象などいるはずもないし、象のような巨大な生き物が部屋にいれば誰もが気がつくことだろう。この言葉の真…

読む瞑想「ねじまき鳥クロニクル」

村上春樹が好きです、と言うとしばしば話題になるのが、あれだけ毎年とるとると言われているにもかかわらず、なぜ村上春樹はノーベル文学賞を取れないのか?ということだ。その質問に対してのぼくの答えは簡潔で、いつも「政治的イデオロギーがないからでし…

ほんとうの豊かさとはなにか? 東京物語

カズオイシグロが自身の作品を作る上で影響を受けた作家は誰か?とインタビューされたとき、日本人小説家ではなく、ロシア文学、その中でもとりわけアントン・チェーホフと、日本映画の監督、小津安二郎の名前を上げたそうだ。 なるほど、小津安二郎の「東京…

ウォーキング・デッドがつまらなくなったのはなぜか?ドラマの起きない人間ドラマについての考察

シーズン8を観終わって思った。悲しい。わくわくして次の話を待ち望み、次の日に仕事があるのに深夜まで貪るように見てたあのウォーキングデッドは死んだ。このシーズンを通して見て感じたのは、ウォーキングデッドが残念な、よくあるゾンビドラマに成り下が…

Chromebookの調子がおかしい?DEVモードで使っているひとは注意

ここ数日いろいろと試行錯誤していたので、メモも兼ねて書きます。 結論から言うと、チャンネルがDEV(デベロッパーモード)だったのが原因でした。 STABLEモードに戻したら以下の現象が解決しましたので報告します。 【現象】 ・Jotter Pad(アンドロイドア…

世界はぼくたちの行動でできている 若者をやめて大人を始める

大人っていったいどういう存在なんだろう?二十歳を越えたら人は自動的に大人になるんだろうか?選挙権が与えられたとき、お酒が飲めるようになったとき、人は若者から大人になるんだろうか?社会的にはそうかもしれないが、なんだか腑に落ちない。だったら…

翻訳で死なない小説とは? カーヴァー「羽根」(「大聖堂」より)

翻訳本のことを話すときにときおり話題になるのが、「翻訳本は原文から翻訳するときにその文章の本来の魅力は損なわれてしまう。だから、その小説の真髄を味わうには原文のままで読むしかない」というもの。 その主張にも一理はある。英語圏でしか伝わらない…

神のいない世界でどう生きるのか 神の子どもたちはみな踊る

子どものころ、一輪車の練習に父親が付き合ってくれた。早朝、まだ日の登らないうちに一輪車をトランクに詰めて近所の広場まで運転してくれた。とにかく乗れるようになるまで毎朝その特訓は続いた。父は文句を言わなかったし、ぼくも弱音は吐かなかったと思…

その愛は破滅を宿命付けられている「死の棘」

『怒りには 目的がある』そう言ったのはオーストリアの心理学者アルフレッド・アドラーだ。 例えば、「どうしても子供や夫に対する怒りをコントロールできない」という女性がいたとする。さっきまで烈火の如く怒り、子供を叱責していた母親も、電話がかかっ…

統制された狂気を天才と呼ぶ Devilman Crybaby

愛とは何か?ケモノヅメ、カイバ、ピンポン、夜明け告げるルーのうた、夜は短し歩けよ乙女。湯浅政明の監督したアニメ作品には様々な形の愛が現れ、それが試される。友情、家族愛、異性愛、そして人間や人生、世界に対する愛。湯浅作品のうちのいくつかはそ…

清潔な廃墟 ブレードランナー2049

誰が撮っても文句を言われるのではないかというくらい、オリジナルのブレードランナーはカルト的な人気を誇っていた。1982年、ぼくはまだ生まれていないのでその時代の空気はわからないけれど、後の多くのフィクションがこの映画の影響を受けていることを考…

全員嘘つき! カズオ・イシグロ初心者にうってつけ 夜想曲集「降っても晴れても」

今年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの著作として有名なのは、「日の名残り」「忘れられた巨人」「わたしを離さないで」などの長編だ。これらの作品は、作品全体が巨大なメタファー、隠喩によって支配されており、書いてあることよりも書いてい…

祝ノーベル文学賞 信頼できない語り手が信頼できる語り手となる時 日の名残り

今年のノーベル文学賞がカズオ・イシグロに決定した。ファンとしてはとてもうれしく思うし、これから日本でもカズオ・イシグロの小説を読む人が増えたらいいな、と思うので、レビューを書くことにした。なぜ彼がこのタイミングでノーベル文学賞を受賞したの…

芸術か猥褻か、知性か本能か?チャタレイ夫人の恋人

1929年。イギリスで初めて出版された「チャタレイ夫人の恋人」は著者ロレンスの判断でオリジナルの内容から性描写が割愛されていた。オリジナルは知人のみに配布されたが、海賊版が横行していたらしい。 1960年、性描写をオリジナルに戻した無修正版チャタレ…

『選択』と『年齢』

2017年夏。文学誌を開いた僕は、3度目の挑戦が報われなかったことを知って肩を落とした。今年で33歳になる。一次予選すら通過できなかった文学賞を、それでも今年もまた目指すことになるだろう。小説のネタになるような構想はある。10年勤めた会社だ。抜き…

街が人を作る。ニューヨーク旅行記

昨日までニューヨークに行っていましたので、旅行記を書きました。 ◆ メモリアル・デイを前日に控えた日曜日。僕はソーホーの安いホステルに泊まっていた。アヴェニューの名を取っただけのいいかげんなネーミングで、かろうじて鍵のかかる一人部屋はスーツケ…

グレート・ギャツビーを三回読む男なら俺と友達になれそうだな「騎士団長殺し」

新刊のたびに全国ネットのニュースになり、ノーベル賞のたびに噂され、存命にも関わらず全集が出る。(僕も持ってる) こんな小説家は僕の知る限り日本では村上春樹だけだ。 そんなわけでもちろん騎士団長殺しには発売前から注目していたし、Amazonで予約し…

すべての部品が置き換えられたとき、同じ人物といえるのか ゴーストインザシェル

テセウスの船というパラドックスがある。ギリシャ神話のテセウスという英雄がクレタ島から帰還したときの船には30本の櫂があり、アテネの人々はこれを大昔から保存していた。しかし、当然櫂は使っていれば老朽化する。朽ちて使えなくなった櫂は新たな木材…